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姑の認知症が進んで、介護施設に入った時のことです。
小柄なおばあさんが話しかけてきました。おばあさんの身の上話を聞くと、北関東の貧しい農家の出で小さい時から学校も行けずに働いて、娘を産んでからも苦労続きでやっと一人で育て上げたということでした。
「そうして育てた娘が、今度は親孝行するって言って、こんな良いところに入れてくれて…」と、孝行な娘さんの自慢を嬉しそうに話してくれたのです。
病院が経営していたその介護施設は、新築で綺麗な施設ではありましたが、特に贅沢な施設という訳ではありませんでした。
けれどもおばあさんは、「ご飯も美味しくて、みんな親切で、ここはほんとに天国みたいだけど、娘にお金の心配させるのが申し訳なくてね…」と娘さんのことを案じていました。
お昼の時間になって、大きなテーブルにそれぞれお年寄りや介護の方が座って食事が始まりました。
元気なおばあさんは介助もいらずに、美味しい美味しいとご飯を平らげていました。ふと見ると、向かいの席に背の高い上品なおじいさんが、2人の介護士さんの介助を受けて食事をしているのですが、食欲がないのか目を閉じたまま、口元に差し出されるスプーンを手で押さえて押し戻しています。
「~さん、食べましょうね。食べないと元気が出ませんよ」と介護士さんが声を掛けますが、おじいさんは目を閉じたままスプーンを手で押し戻します。
食事を終えたおばあさんが、向かいのおじいさんにこう声を掛けました「こんなに良い所に入れてもらって、みんなに親切にされているのに、我がまま言ってたら罰が当たりますよ!」
すると、今まで目を閉じていたおじいさんがパッと目を開くと、震え声でこう言ったのです。
「お、お前に何がわかるっ!」慌てた介護士さんはブルブルと震えているおじいさんの車いすを押しておじいさんを個室に連れて行きました。
おじいさんは、威張りくさっていたわけではなく食欲がなかったのかもしれませんし、情けない自分に腹が立っていたかもしれません。
「お、お前に何がわかるっ!」きっと深く落胆していたり、悲しかったんだと思います。
おばあさんの気持ちも分からないではありませんでした。きっと、とても娘が誇らしくて幸せだったのでしょう。
それから2か月もしないうちに、娘を案じていたおばあさんは、心臓発作で突然亡くなったそうです。