麗しい人柄

考えたこと
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その人は、表参道に小さなセレクトショップを開いていました。

正確にはそのショップは、今はまだ開いています。

封書に入った”SALDI”のお知らせが届いたのは、11月の初旬でした。書状には11月10日から12月10日までのセールのお知らせと、12月10日を以っての閉店の挨拶が入っていました。

その文書の中の27年間の感謝の言葉をよんで、あぁ、あれから27年も過ぎたのか…と感慨深く思い出したのです。

27年前知り合いに連れて行かれたのは、骨董通りを1本入った裏通りにある古いアパートメントの1室でした。

その部屋の入り口に飾られていた、濃紺の厚手ウールのジャケットとその首に巻かれた深紅のカシミアのマフラーの美しさに、これこそイタリア!と心が震えたのを覚えています。

現れたのは、小柄で華奢なショートカットの女性でした。小さな顔に不釣り合いなほど大きな目の彼女は、麗人ともいえる外見にも関わらず、マニッシュなパンツに紐ぐつを履いた姿で、これもまたイタリアの粋を感じさせる装いだったのです。

金太郎飴のようにどこも同じ品揃えの百貨店にはない、バイヤーである彼女のセンスに満ち溢れた本当に素敵なお店でした。

その日以来27年間…。アパートメントの1室から居心地の良い素敵なお店に変わっても、私の生活の状況が変わっても、彼女は打ち解けていながらも常に丁重な扱いをしてくれていたのです。

もとより、上客風を吹かせる程の買い物もしてはいなかった私ですが、彼女の私への接し方は心地良くそれでいて節度のある、麗しいという表現がぴったりとした接客の仕方だったのです。

その接し方は、顧客の方全てに同じであったと思います。

彼女は外見だけでなく、言葉から佇まいまで全てに麗しい人でしたし、お店を閉めたこれからも麗しく歳を重ねていくのではないでしょうか。

この素敵なご縁が途切れることなく、末長く続くことを祈って止みません。

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