映画「関心領域」

考えたこと
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昨日の予定通り「関心領域」を授業前に鑑賞しました。

朝から晴れて30度を超える暑さの中、大汗をかいてたどり着いた恵比寿ガーデンシネマのロビーで、軽い食事を摂りました。

涼しいロビーでアイスコーヒーとトマトのピザを食べながら、炎天下を歩く人を眺めていると、自分の周囲の音が消えて、ふと真空になっような気がします…。

この真空のままなだれ込んだ映画の世界は、小鳥の囀る穏やかな森の中で、ヘス一家が楽しむシーンから始まりました。

本当に、何気ない幸せな家族の日常ですが、徐々に後ろに覗く姿が映し出されていきます。

テーブルに投げ出された衣服を、使用人の女性たちに分け与えるシーン…。

恐らくは、収容所で剥ぎ取られたであろうワンピースの数々。

妻のイルゼは、服を取り合う女達を尻目に、私室に入りドアを閉めると、素晴らしいミンクのロングコートを身に纏い鏡に向かってポーズを取ります。そしてポケットを探り、取り出した赤い口紅を鏡の前で唇に塗るのでした…。

大きな家を建て、庭を整え、プールサイドでパーティを開く。ユダヤ人から奪ったフランス製の香水を使い、望みの生活を手に入れて満足するイルゼ。

一方、新しく設計された高機能の焼却炉では、400〜500の「荷」を1度に焼くことが出来、一層効率的に処理することが可能に…。

毎夜毎夜、窓を紅く染めて焔を上げ続ける焼却炉の煙突。

そして、紅く染まる部屋の中で、ヒットラーユーゲントの長男は、死者の歯から金歯を選分けていたのでした。

川遊びをするヘスの足に、川に流された死者の骨が当たり、慌てて子供達を川から引き上げて風呂で洗うヘスとイルゼ。

恐らくは、豊かなユダヤ人の家で女中をしていたであろうイルゼの母が訪れ、豊かな生活を見て喜びましたが、毎夜窓を染める焼却炉の煙突の焔に、耐えられず逃げ帰るのでした。

しかし、イルゼとヘスに恐れはありません。

転属させられたオランダの地から、またアウシュビッツに帰属出来る喜びの電話を妻にかけるヘス…。

再び、搾取と贅沢の日々が始まる喜びを噛み締めながらも、病の影を予感させるヘスの映像と重なって、現在のアウシュビッツ収容所記念館の映像が流れました。

二度と履かれることのない靴の山々、山のような松葉杖、左右の壁に並ぶ犠牲者の写真の数々。

けれどもこれらは全て、ヘスとイルゼにとっては、「関心領域」の外の存在だったのです…。

この映画、ヘスとその妻と子供達の生活を淡々と映しながら、合間に塀の隣の現実を静かに挟み込むことを通して、声高に彼らを断罪することなく、個人の欲望が、己の良心からさえも目を逸らしてしまう有様の恐ろしさを訴えていると感じました。

圧倒的な成功と金銭的な豊かさを前にした時、あなた達も彼らと同じことを決してしないと言えますか?…とね。

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